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今、ホーロー製ケトルが選ばれる理由とは?職人の本気から生まれた性能の形 kaico

ホーロー製ケトルを作り始めて40年。かつて画期的な製法を生み出し、世界に影響を与えた昌栄工業が、デザイナーの小泉誠さんとともに新たなケトルを生み出しました。昌栄工業の歴史とともに、こだわりが詰まったそのケトル「kaico」について伺いました。





▼町工場が起こしたイノベーション

―まず、昌栄工業とホーロー製ケトルの歴史について、教えてください。
 
昌林 弊社の創業は1947年で、金属プレス加工をしています。ホーローのケトルを作り始めたのは、1980年頃ですね。コップ、鍋などホーローの製品はたくさんの種類があるのですが、弊社の最初のホーロー製品が、一番作るのが難しいと言われるケトルでした。
 
 
―一番難しいものから?
 
昌林 はい。その頃、アルミやステンレスのケトルと比べると、ホーローのケトルはかなり価格が高かったんです。その理由は、注ぎ口やハンドルなどパーツが多くて、作るのに手間がかかるから。今の会長である私の父がホーローのケトルを作り始めたのですが、依頼主はきっと弊社の技術力を見込んで、一番難しいケトルを注文したのだと思います。弊社は、ホーロー製ケトルでも画期的な製法を生み出して、それが世界に広まったんですよ。

―御社の技術が世界に?
 
昌林 はい。技術的な細かい話は置いておいて(笑)、ホーローのケトルを製造する際にところどころで溶接をするのですが、溶接の個所が多ければ多いほど不良率も高くなり、従来の製法では10%から12%が不良品になっていました。そこで弊社が世界で初めて、一枚板を加工することでケトル本体の溶接を大幅に減らす「スピニング型」を考案したんです。この製法によって美しい一体型のボディが生まれ、なおかつ製造効率が上がり、不良率も激減したんです。
 
 
―ホーロー製ケトルのイノベーションですね。
 
昌林 そうかもしれません(笑)。従来の製法だと1日に200個作るのが精一杯でしたが、弊社の製法では1日約500個作れるようになりました。そうしたら、新しい製法について世界中から問い合わせがきたんです。その時、私の父は分け隔てなく製法を教えました。そうすることで一気に昌栄工業の技術が広まり、それまで高価だったホーローのケトルの価格が、世界的に下がったんです。
 
 
―特許で技術を守るのではなく、技術を広める道を選ばれたんですね。
 
昌林 はい。最初は弊社の技術が日本で広まって、毎月2万個、3万個ぐらい国産のホーロー製ケトルが輸出されていたんですよ。
でも、世界中に技術を教えたことで、次第に輸出はなくなりました。それでいいんです。もしその頃、私が社長をしていても同じ選択をしたと思います。
ホーローの製品が手に取りやすい価格になり、売れることで、ホーローの技術や製品が後世に残っていくじゃないですか。私たちはさらに新しい技術を開発して、質の高いホーロー製品を作ればいいんです。
 

▼昌栄工業が作ってきたケトルの歴史

―御社の歴史を振り返る意味でも、これまでにどんなホーロー製ケトルを作ってきたのか、紹介して頂けますか?
 
昌林 わかりました。最初に作ったのは、弊社で「パンプキン」と呼ばれているケトルです。技術開発をしてからケトルの製造を始めたので、この時はすでに「スピニング型」を使った製法で作っています。 珍しい形で作り方としては「バルジ加工」という技術を使っていますね。 アメリカに輸出されハロウィーン向けの商品でもありました。

昌林 次にアメリカに輸出したのは、猫のケトルです。ぱっと見ではわからないと思うのですが、ハンドルの加工も特殊で、今日ご紹介する過去のケトルのなかでは最も難易度の高いケトルですね。
これは外部のデザイナーが入っていて、アメリカで爆発的に売れました。ここで紹介する5つのケトルのなかで、唯一、外部のデザイナーが起用されているもので、今見てもかわいらしいですよね。これは私が「デザイナーってすごいな」と思ったケトルです。
 

昌林 これは、アメリカで主流のデザインを取り入れたのですが、日本であまり売れなかったものです。
アメリカ人は身体が大きく、力もあるので、この形のハンドルでなんの問題もないんですよ。でも日本人は手首が弱いので、このハンドルだと重く感じるんです。作ってみて気づくこともあるんですよ。

昌林 30年ほど前、日本でよく売れたのはこのデザインですね。その頃、結婚式の引き出物や贈り物として、ものすごくホーロー製品が重宝されたんですが、この花柄、特に胡蝶蘭がデザインされたものは人気でしたね。この花柄は「転写」といって、シールを張って焼いています。今はポップな柄の転写をしたケトルが少し残っていますね。

昌林 これは技術的に挑戦したケトルで、外形に対して世界最小の開口部を目指して作ったものです。これ以上はできないというレベルの限界の小ささで、よくここまでやったなと思いますが、売れなかったようです(笑)
 あと、湯が沸いたらピーッとなる注ぎ口のパーツは、最初の頃はなかったんです。30年前ぐらいからよく見かけるようになったんですが、いつの間にか見なくなりましたね。最近ではほとんどついていません。

▼「便利で使いやすい」を追求したデザイン

―過去40年、様々なホーロー製ケトルを作ってきた御社が、2003年に初めて自社ブランドとしてリリースしたのが、「kaico」です。まずは名前の由来を教えてください。 昌林 どこか懐かしさを感じさせるレトロ感を表す「懐古」と、シルクのように白さを表す「蚕」をイメージして、「kaico」です。

―特徴を教えていただけますか?
 
昌林 はい。これは家具や空間、プロダクトのデザイナーである小泉誠さんと一緒に作りました。小泉さんは形のキレイなものを作ることが第一目標ではなくて、「道具として便利で使いやすい」というところからデザインをしていただき、今の形になりました。その結果、ホーロー製ケトルとして、ほかのどれにも似ていない、本当にオリジナルのものになったと思います。
 

(家具デザイナー:小泉誠さん)

―そのポイントは?
 
昌林 生活に馴染む道具として、さまざまな工夫が施されています。例えば、大きくて広い開口部はお湯が入れやすいだけではなく、ケトルのなかまでスッと手を入れて全体を洗いやすいデザインになっています。小泉さんはケトルをいつも清潔に保つことを意識していて、一般的なケトルは蓋の縁や開口部がカールしていて洗いにくいので、そこも改善しました。今の時代、日々の生活のなかで「清潔であること」は大切なことですよね。
 
 
―ほかにもありますか?
昌林 広い面積で火を受けるためにデザインされた底です。これは正確なデータではないのですが、一般的なホーロー製ケトルよりも早くお湯が沸くんですよ。湯口も、注ぎやすいようにデザインされています。
また、お湯を沸かしている最中でも安心してハンドルを握ることができるように、熱くなりにくい天然の白木で挟んでいます。もちろん、持ちやすさにもこだわりました。
ハンドルでいうともうひとつ、ハンドルを立てた時にコテンと倒れないように、ほぼすべてのホーロー製ケトルにはハンドルストッパーがついているのですが、使い続けているとこれが欠けることがあるんです。それを避けるために、「kaico」は恐らく、日本で唯一、ハンドルストッパーがついていません。
自社技術でハンドルの接続部に加工を施して倒れないようにしているのです。ハンドルストッパーがないことで、ハンドル部分も洗いやすくなり、見た目もスッキリしました。
 

―ユーザー目線の細かな工夫が、あらゆるところに施されているんですね。
 
昌林 はい。ここまで「便利で使いやすい」ことにこだわったホーロー製ケトルは、ほかにないと思います。それができたのは、小泉さんの存在とともに、昌栄工業がホーローメーカーではなく、金属プレス加工を本業にしているからだと思います。ホーロー製ケトルのデザインはこう、作り方はこうという業界の常識や慣例に囚われていない私たちが作ったことで、ほかにないケトルになりました。

▼通常の倍以上の手間をかけて作られる

―細部にまで至るユーザーへの気遣いが、見た目の清潔感や温かみにも表れている気がします。
 
昌林 ありがとうございます。実は一般的なケトルの場合、およそ40工程で完成するのですが、「kaico」は約60工程かかります。それだけの手間と時間をかけて、丁寧に、繊細に作っていることが、見た目からでもユーザーに伝わっていれば嬉しいですね。
 お客様のなかには、見た目の好みでケトルを購入されて、使っているうちに便利さ、使いやすさに気づいて、「kaico」のファンになっていただくという方もいます。
 
 
―リリースから17年が経つ「kaico」シリーズのなかでも、このケトルは断トツの人気だと聞きました。
 
昌林 世の中には便利で安い、あるいはデザイン的にも美しい電気ケトルがあるなかで、なぜ「kaico」のケトルを選んで頂けるのか、社内でも話し合ったことがあるんです。以前に知り合いが、「これほど生活のなかで道具を使うのは日本人だけ」と言っていました。包丁やお鍋など何種類も持っている人が多いですよね。そういう国民は非常に珍しいと。もしそうだとしたら、日本人はもともと「道具」が好きで、そこにこだわりを持つ人も少なくない。だから、「kaico」のケトルが選ばれ続けているのかなと思っています。
 
 
 
―生活を彩る道具ということですね。
 
昌林 はい。デザインや機能を含めて、ユーザーの方にとって、キッチンに置いてあるだけでちょっとした満足感が得られたり、丁寧に生活をしているという実感を得られる存在になれたらと思います。