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現代の文脈に取り入れた伝統工芸を、使い手の暮らしに届けるために|aeru・矢島里佳さん

一流シェフが愛用する調理道具や、百戦錬磨のバイヤーが展示会で「これは」と手に取る物。その道のプロたちは、どのような視点で物を見て、どこに着目するのでしょうか。
コロナ禍でリアル展示会になかなか足を運べない今、目利きたちの目を借りて物のレビューをしてもらい、変化し続ける日本のものづくりを捉えようという企画を立ち上げました。

今回は、商品開発や教育事業、ホテルのプロデュース事業を手がける株式会社和えるの矢島里佳さんに、主に伝統工芸に関連する商品をレビューしていただきました。



>>12/1(火)19時~ トークイベントのご予約はこちら(どなたでも参加可能です)



プロフィール:矢島里佳(やじま りか)さん|株式会社和える 代表取締役
1988年東京都生まれ。職人と伝統の魅力に惹かれ、「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いから2011年、大学在学中に株式会社和えるを創業。2012年、“0歳からの伝統ブランド"aeru”を立ち上げ、日本全国の職人と共にオリジナル商品を手がける。2014年に東京「aeru meguro」、2015年に京都「aeru gojo」拠点をオープン。日本の伝統を泊まって体感できる“aeru room”、日本の職人技で直す“aeru onaoshi”など、伝統を次世代に伝える視点でさまざまな事業を展開する。
伝統工芸への入口からその先へ
今回は20ほどの商品をピックアップして、京都「aeru gojo」におじゃましました。矢島さんはひとつずつ手に取りながら、物の魅力を発信してきた伝え手として、そして伝統工芸を暮らしに取り入れている使い手としての視点で、物と向き合います。


一通り商品を見た後、矢島さんは特に「いいな」と思ったり気になったりしたアイテムを8種類選んだ上で、2つに分類しました。

 
「私がバイヤーだとしたら、その物の魅力を自分の会社にいるスタッフが伝えられるのかを基準に物を選びます。なので、伝える力がどの程度求められるかによって2種類に分けてみました」

商品のことをあまり知らなくても納得して買える値段の物と、そうでない物。後者には物を届ける(売る)人による高度なコミュニケーションが求められます。

「小売業はなぜか、物が売れないことを物のせい、作り手さんのせいにしがちですけれど、物が売れるかどうかは、物を届ける(売る)人のスキルと知識、伝える力に左右されます。ですから、その3つの力をどこまで持っているスタッフがお店にいるか、そのレベルを見極めた上でバイイングするべきだと思います」

自社のスタッフの「伝える力」を把握した上で、伝えやすい商品と伝えにくい商品を分類する。全員の伝える力を引き上げるのか、そうでないなら現状のスタッフに合った商品のみを仕入れるのかを見極める。矢島さんの視点には、現在も社員教育を店頭での接客から始めるaeruの意志を感じます。
 
矢島さんの分類のなかで、まずは「伝える」難易度の低いものから見ていきましょう。伝統工芸の文脈を受け継ぐ商品のなかでも手に取りやすい価格帯に抑えられているアイテムには、伝統工芸の「一歩目」としての役割を期待しているんだとか。


 
漆器を暮らしに取り入れ、工芸に触れるきっかけに|越前硬漆 刷毛(RIN&CO.)
福井県鯖江市で生まれたRIN&CO.の「越前硬漆 刷毛目」は、まさに導入の役割を持つ商品です。矢島さんはこの商品が導入であることを使い手にどのように伝え、その後のステップをどう設計するかが重要だと話します。

「洋食器に寄せている形で、値段を高くしすぎず、でも漆を使っているこの商品は、漆器の魅力を知ってもらう入口としてよいと思います。『漆って赤と黒だけじゃないんだ』という気づきから入ってもらえますし、インスタグラムにも投稿したくなりますよね。

ただ、ここで止まってしまったらもったいない。漆を使われないよりは、使われたほうがいいと思います。でもこれが導入なのか、それともこれを使ってもらえたらそれで満足なのか。この商品の先を作り手や届け手が考えているかどうかで、お客様への伝わり方が変わってくるんです」

現代のライフスタイルに合わせた手に取りやすいアイテムによって伝統工芸への入口を用意した先に、どのような道のりで、何を伝えていきたいのか。使い手とのコミュニケーションを長期的に考える視点が求められているのです。


>>RIN&CO.ブランドページ
越前硬漆 深ボウル L
L 203 INDIGO 01
商品詳細はこちら
伝統工芸も「お得でラッキー」が入口でいい|スリッパ(会津木綿 青キ製織所)
同じく伝統工芸に近づく一歩目としての役割を期待できるのが、会津木綿  青キ製織所(あおきせいしょくしょ)の商品。矢島さんは3,900円(税抜)のスリッパを手にとって、「これなら物についてあまり知らなくても、スリッパはこれくらいの物よね、と気軽に購入できる値段ですよね。手にとってみて『この値段で伝統工芸なんてお得かも』という入口になると思います」とコメントしました。

>>青キ製織所ブランドページ
美しいパッケージだとギフトに選びやすくなる|文綴箱(名尾和紙)
矢島さんが運営するaeruの商品の特徴は、ギフトに使われる場面が多いこと。aeruの商品をギフトで受け取った人がaeruを知り、今度は他の人にaeruの商品を贈る連鎖がおきているのだとか。ギフトとして贈りやすいかどうかも、伝統工芸を知ってもらう大切な入口になる可能性を秘めています。

「これはギフトにもしやすいですね」と矢島さんが選んだのは、佐賀県・名尾和紙の「文綴箱」。誰かのことを思って購入を決めるギフトは、物の使い勝手だけでなく、パッケージを含めた物全体がもらった相手にとって嬉しいかどうかも重要なポイントです。

「品のいいパッケージですし、こだわりも感じます。お値段が5,000円以内におさまっているので、贈りやすいと思います」

この便箋の特徴は、万年筆で書いてもにじまないこと。ギフトとして受け取る人は商品の説明を受けられないことを思うと、「にじまないことを、さりげなくもう少し押し出したほうがいいですね」というコメントも納得の視点です。

>>名尾手すき和紙ブランドページ
文綴箱
商品詳細はこちら
その物だけで使い手が用途を想像できるか|塩こうじの甕(かもしか道具店)
ひと工夫すればギフトにしやすそう、とコメントがあったのは、かもしか道具店の「塩こうじの甕」です。発酵や健康食に興味を持つ人が増えているため、「時代性を捉えていますよね。今っぽいと思います」とのこと。

「一緒に塩麹を置いて販売したら『そういうことなのね』と物の用途を理解できるので、スタッフからあまり説明がなくてもギフトにしやすいと思います」

>>かもしか道具店ブランドページ
物の背景を「伝え手」がどこまで届けられるのか
伝統の文脈から生まれた、現代に合うデザイン|鉄瓶 なつめ(長文堂)
矢島さんの分類によると、これまでご紹介した商品よりも伝える力が求められる物として選ばれたのは、長文堂の「鉄瓶 なつめ」と清原織物の「名刺入れ」でした。

矢島さんはご自宅で鉄瓶を使っているそうで、鉄瓶 なつめの特徴である軽さについて「たしかに、軽いですね」とコメント。取手についているなすびの由来が気になったようです。

「伝統を受け継ぎながら現代に通じるデザインで、価格も鉄瓶として適当だと思うので、鉄瓶に興味がある方には売れると思います。
でも一般的には、鉄瓶に興味のある方よりもない方の方が多いと思います。知らない方からすると、やや高いと感じられる価格。スッタフが鉄瓶の本質的な魅力を、存分に伝えられるかが重要になってきます。」

>>長文堂ブランドページ
工芸に初めて触れる人が、その価値に納得できる接客を|名刺入れ(清原織物)
物の第一印象と実際の値段が離れている理由の伝え方が問われるのが、こちらの名刺入れ。古代エジプトに始まり、西陣織の技術として受け継がれてきた「綴織(つづれおり)」の技術を用いています。

「私は綴織を知っているので納得できるお値段ですが、綴織を知らない人からしたら、思ったより値段が高いな、と感じるのではないでしょうか」

「伝統工芸について知らないほうが当たり前だと思うので、この物に対して9,000円という値段に納得していただくためには、スタッフの伝える力が問われると思います。綴織の魅力をお伝えできたら、しっかりした形ながら、やわらかくて手馴染みも良いことを感じられるので、スタッフの伝える力が問われる商品ですね」

>>清原織物|sufutoブランドページ
名刺入れ
サイズなし 花紅
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セットで購入する物の魅力をどう伝えられるか|ウールの椅子敷き(SAOL)
今回矢島さんがピックアップした商品のなかで「最も伝える力が求められる物」のひとつが、SAOLの「ウールの椅子敷き」。ウールと木綿を織り込んでいて、クッション性がある商品です。お値段は30,800円。

「これは物の魅力を伝えることが難しいなと思います。単体で購入される方もいらっしゃるかもしれませんが、2つや4つセットで買う場合もあると思うので、お値段の背景を伝えられるスキルが必要です。伝統的な文様が現代に合うようにデザインされていてかわいいので、あとはコミュニケーションの工夫次第ですね」

>>SAOLブランドページ
素材の意外性と、細部まで考え尽くされた使い心地|rectangle rays tray(森工芸 × graf)
もうひとつ、最も伝える力が求められる物として選ばれたのが、大阪のクリエイティブチームgrafと徳島の森工芸がコラボレーションした「rectangle rays tray」。じつは矢島さんが今回選んだ商品のなかで、いちばん気に入ったアイテムでもあります。

「木目を活かしていて、藍の自然な色味で、パッと見ただけですごく美しい。こういう質感の和紙もあるので、触らなければ和紙だと思う方もいらっしゃる気がします。おぼんを持ったときに手に当たる角もおぼんの端も丸く加工されているので、持ったときの感触も良くて。使う場面を細やかなところまで考えているなと思いました。インテリアとして飾っても素敵ですよね」
お値段は30,000円(税抜)。伝統工芸への知識がある矢島さんが納得しやすい値段であっても、使い手が理解しやすいかどうかはまた別の話なのです。

「私は素材を知っているからこそ興味をそそられますし、『ここ大変だっただろうな』『とても緻密なお仕事だな』と想像できるので、お値段にも納得できます。細部までこだわっていることを感じ、物の力は圧倒的なので、あとは工芸を知らないお客様にお伝えできるスキルがポイントですね」

>>grafブランドページ
作り手と使い手をつなぐ役割を担うために
矢島さんがレビューを通じて何度も話題に出していたのは、販売員の「伝える力」。そう考えるようになった背景には、現代の「物を売ること」「買うこと」への疑問がありました。

「『物を売る』時代は、もう終わったと思っています。けれども、市場を見渡してみるとまだまだ『物』を売っていますよね。でも、お客様は買うことそのもので満足しません。現代は物が行き渡った時代ですなので、小売業は物を売るのではなく暮らしの豊かさを提案すべきだと思います。この物をお家に迎え入れると、どんな素敵な暮らしが待っているのかを想像していただけるよう、お伝えすることが大切です。」

だからこそ矢島さんは、自社のスタッフに「お客様に使っていただけるだろうな、と思えた物しか売らないように」と伝えているそうです。

「売りやすい値段ありきでものづくりをすると、本当に良いものは生み出しにくくなります。作り手が本領を出し切ったいい物を生み出すには、小売業伝える力(売る力)が問われます。ですから、スタッフの伝える力を育むことは小売業の責任だと思います。

ですから私たち和えるの仕事は、物のことを伝えるジャーナリズム業だと考えているんです。小売、ホテル、教育などさまざまな事業を展開していますが、すべての根幹にあるのは『伝えること』。お客様に物の良さを一方的に伝えるのではなく、目の前のお客様の豊かな暮らしを一緒にイメージすることを重視しています」

和えるではどの事業を担当する社員でも、全員が店舗での販売から研修をスタートしています。作り手や技術への理解、使い手のライフスタイル、ギフトを贈る相手のイメージ……ひとつひとつ研修を重ね、お客様が潜在意識で何を求めているのかを掴めるようになって初めて、他の仕事を担当できるようになるといいます。なぜなら和えるの仕事はすべて、「伝える」ことだから。

「ホンモノいい物があることをお客様にお伝えするのは、小売業の使命です」

そう語る矢島さんの言葉からは、作り手と使い手の間に立つ「伝え手」に求められている役割の重要さを感じました。





トークイベント情報
日時:12/1(火) 19:00~

こちらの記事では伝えきれなかったバイイング手法や、小売店が果たす役割についてお話いただきます。
レビューしていただいた商品の作り手も登場。ものづくりのこだわりを深堀りします。

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